私が選んだ職場 私が選んだ職場【丸山園茶舖】

2021年2月22日 公開

子どもがお店に顔を出すなと叱られ、お茶屋の仕事を教えてもらうこともなく、専門用語も分からないままにお茶の世界に入っていった井ケ田さんは、行く先々で知識を吸収し後継者としての下地を作っていきます。

心配を抱えながらも知識と技術を身につけ、お茶本来の味を伝える伝道師に。

代表取締役社長 ティーマスター/井ケ田嗣治さん(52歳)
老舗お茶屋の3代目経営者。ティーマスターとしてお茶の相談にも乗る。

重圧を感じながらも踏み込んだお茶屋への道。

老舗お茶屋の3代目として生まれ育った井ケ田さんには、幼いころから悩みがありました。生まれつきアレルギーで鼻が詰まりやすく、ほとんど鼻が利かなかったそうなのです。「お茶屋に生まれてきたのに香りが分からないなんて後継ぎとして大丈夫だろうかと、子ども心にプレッシャーを感じていましたね」。中学生になっても耳鼻科通いは続き、将来への重圧を抱えたまま高校に進学することになります。
スポーツ少年団のヨット部でキャプテンを務めていた縁などもあり、高校は水産高校の機関科に進学。在学中はエンジンだけでなく、危険物の取扱やボイラー、アーク溶接などいろいろなスキルを習得します。「卒業が近くなるころには、このまま船に関わる仕事を数年間経験してから家業を継いでもいいかなと思い始めました。ところが、周囲の親しい人たちから、お前は海に出たらどっぷりはまるタイプだ。丘に戻ってこなくなるから駄目だと反対を受けたんです」。計画は早々に中止。別の進路を模索している時に、古くからお付き合いのあるお茶の問屋さんから、静岡県立農林短期大学校の茶業課でお茶栽培の勉強をしてみてはどうかと勧められます。

知らなかったからこそ素直に知識を吸収できた。

こうしてお茶の世界へ足を踏み入れ、静岡での新たな生活が始まりました。幸い、高校時代の終盤からアレルギーも改善し始め、静岡では耳鼻科に通うこともなく、香りも分かるようになったそうです。お茶に関しては右も左も分からない状態でしたが、逆に、先入観を持たず見聞きしたことをそのまま覚えてしまえばよかったので、大変に感じたことはなかったと当時を振り返ります。
「1年目で基礎課程を学び、2年目は茶業試験場での研修に入ります。私の時代の講師陣は各分野の第一人者がそろっていて、多くのことを学びましたね。更に幸運だったのは、国内の名だたるお茶屋さんが集まる問屋に行けたこと。何十種類とあるお茶を試飲するんですけど、産地ごとの味の特徴や、表現方法など、お茶の味の判定基準をしっかりと頭に入れることができたんです。お陰でお茶の生産者や問屋の人から、こいつはお茶が分かるやつだと認められ、今でも上質の茶葉で商売させてもらえています」。
農林短期大学校を卒業後は、古くから親交があった千葉県木更津のお茶屋さんで商売の基礎を教わるため、修業生活を送ることになります。配達にはじまり、店頭での販売、伝票の整理など商い全般を教え込まれ、お茶の技術と商売を学んだ井ケ田さんは実家へと戻ります。

価格や産地ではなく味で選べるお茶屋を目指す。

函館に戻った井ケ田さんは、配達や複数のお茶をブレンドする作業など、退職する前任者の業務を引き継ぐ形で家業に関わっていきます。40歳で社長に就任。そのころになると新たな事業計画を立てるようになったそうです。中でもこだわったのがお茶の自家焙煎でした。「真空パックの技術も向上しましたが、味と香りのことを考えると、なるべく新鮮な茶葉を使い焙煎したものをすぐにお渡ししたほうがお客様にとってはより良いと思うのです。特に上物のお茶はそれほど量が出るものではないので、必要な時に必要な分だけを自分で焙煎するのがベスト。茶葉によって火加減や加熱時間も微妙な調整が欠かせませんが、修業時代の経験がここで生かせました」。
茶葉それぞれの特徴を考え、そのお茶の良さを最大限に引き出してお客様に提供する。その取り組みは徐々に評判となり、いつしかインバウンドの旅行者が旅行会社に丸山園での茶飲み体験をリクエストするようになったそうです。「お茶に精通していて、おいしいお茶を飲ませてくれる私を、彼らはショップオーナーではなくティーマスターと呼ぶんですよ」。
これまではお茶といえば値段と産地で判断されることがほとんどでしたが、この先目指すのは、全国の茶葉からお客様の味覚に合ったものを探してあげるスタイルのお店。「お客様の味覚にヒットした時には、お茶屋冥利に尽きますよ」と語る井ケ田さんの表情は、生き生きとしてとても楽しそうです。

町の背景を理解して多種多様なお茶を提供する。

函館は移住者の町なので、いろいろな文化が入ってきています。お茶に関してもそうした町の特性を理解し、多様なニーズに応えられる商品をそろえるのが重要です。お茶の産地ではないことが幸いして、全国の茶どころから茶葉を集められるので、今後は函館だからこそできるオーダーメードのお茶を提供していきたいですね。

丸山園茶舖

昭和12年創業。煎茶、深蒸し茶、ほうじ茶、国産紅茶などオリジナル商品を取りそろえる老舗茶屋。近年はインターンシップや、インバウンドのツアーを受け入れるなど、新たな取り組みにも積極的。
北海道函館市末広町2-2
TEL.0138‐23‐5255
http://www.maruyamaen.co.jp

私が選んだ職場

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